大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和51年(ワ)1624号 判決

原告 国際電信電話株式会社

右代表者代表取締役 小池五雄

右訴訟代理人弁護士 芦苅直己

右同 星川勇二

被告 佐野朝男

主文

被告は、原告に対し、金四五万八、九一〇円及び内金四五万五、一三〇円に対する昭和五一年二月八日から、内金三、七八〇円に対する昭和五一年八月二四日から、それぞれ支払ずみまで各年六分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

一  原告訴訟代理人は、「被告は、原告に対し、金四五万八、九一〇円及びこれに対する昭和五一年二月八日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、請求原因として次のとおり述べた。

1  原告は、国際電信電話株式会社法によって設立された株式会社であって、公衆電気通信法、国際通話営業規約等に則り、国際間の電信電話事業を営むものである。

2  被告は、東京(〇三)―×××局の××××番の加入電話(以下「本件電話」という。)の加入者であるところ、同加入電話から、原告の東京国際電話局を通じて、別紙通話明細表のとおりの国際間の通話がなされ、その通話料金は合計四五万八、九一〇円となっている。

3  加入電話の通話料金の支払義務者は、当該加入電話の加入者であり、その支払期日は支払請求をなした月の二五日となっている。このことは公衆電気通信法第四一条第一項、第四三条の規定に照らし明らかである。

なお、付言するに、日本電信電話公社(以下「公社」という。)及び原告は、加入電話加入者に対し、電話料金支払請求権を有するのであるが、電話付き借家の如き場合は、加入者は、公社及び原告に対し、電話料金の支払義務を負担すると同時に、当該加入電話の利用者である借家人に対し加入者が支払った料金の支払請求権を有することになるので、かかる場合は、直接請求の申出があれば、「払いあて」と称し、公社及び原告が直接右借家人に電話料金の請求をなし、その支払を受けることにより、簡便に処理する方法を採っているが、この場合であっても、本来の支払義務者である加入者がその支払義務を免れるものではない。

4  よって、原告は、本件電話加入者である被告に対し、前記国際通話料金四五万八、九一〇円及びこれに対する本件支払命令送達の翌日である昭和五一年二月八日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

1  請求原因第1項の事実は知らない。

2  同第2項の事実中被告が本件電話の加入者であることは認めるが、その余の事実は知らない。

3  同第3項の主張は争う。公衆電気通信法第四一条第一項は、国内通話料金の支払に関するもので、国際通話料の支払義務に関する定めではない。又同法第四三条は、通話停止措置に関する規定で、いずれも加入者が国際電話料金の支払義務者である旨の根拠規定とはなし得ないものである。加入電話の加入者は、公社との間の加入契約により、公社から公衆電気通信役務の提供を受け、これに対し、使用料、基本料金等の支払義務を負担するが、かかる加入者責任は、加入契約の相手方たる公社に対するもので原告には無関係である。国際電話はあくまで原告と通話者間の関係であり、原告が提供した国際通話の役務の対価を請求し得るのは、加入者ではなく、加入電話を利用し実際に通話をした者であり、本件では訴外荻原慎一(以下「荻原」という。)である。本件電話は、昭和三九年八月、東京都港区白金四―八―九所在の訴外佐野正篤所有の家屋に被告名義をもって架設したものであるが、被告は、昭和四九年一二月一一日、荻原に対し本件電話つきで右家屋を賃貸した。以来、荻原は、国内通話の使用については白金電話局と、国際電話については原告と使用者契約を締結して、その通話料を支払っていたものであるから、本訴請求にかかる通話料も同人が支払うべきものである。公社が「払いあて」をする場合は、加入者の申告を要するのであるが、被告は、原告に対し右届出をしたことはない。原告は、被告に無断で「払いあて」を行い、更には、昭和五〇年六月二四日、原告が被告に対し、荻原の本件電話による国際電話通話料が同年一月分から五月分までで合計三八万六、七三〇円滞納されている旨通知してきた際に、同年七月五日、以後本件電話による国際通話を一切差止めるよう原告に申入れたにも拘らず、原告がその措置をとらなかったために、六ヶ月分以上も通話料が滞納されるに至ったもので、これを加入者に請求するのは失当である。

三  《証拠関係省略》

理由

一  請求原因第1項の事実は当裁判所に顕著である。

二  被告が本件電話の加入者であることは当事者間に争いがないところ、《証拠省略》によれば、本件電話から、原告を通じて、別紙通話明細表のとおり国際通話がなされ、その通話料は合計四五万八、九一〇円となっていることを認めることができ、これに反する証拠はない。

三  被告は右料金の支払義務を争うのであるが、電話による公衆電気通信役務を利用しようとする者は、公社との間に加入電話の設置を受け、これにより加入電話加入契約を締結する(加入者となる。)ことにより、公社は、当該加入電話による通話の申込みに対し、電話通信の役務を提供し、これに対し、加入者は右役務に対する対価として、その料金の支払を約する関係にたつものであるから、加入者は、当該加入電話による通話の通話料金につき、公社に対し支払義務を負うものである。このことは、公社との間に加入契約を締結することにより、同様に公衆電気通信法(以下単に「法」という。)に基づき国際電気通信業務に従事する原告との間においてその国際電気通信役務の提供を受け得る地位を取得する加入者と原告との間における当該加入電話による国際通話の通話料金についてもかわるものではない。勿論、加入電話による公衆電気通信役務の利用者は加入者に限られないのであって、加入者は、当該加入電話を他に利用せしめることが禁じられていないことは法第四一条第一項の規定によっても明らかである。右規定は、業として他に加入電話を利用させる等それによって利益を得ることを禁ずる趣旨を含むものであるが、他面、法四三条とともに、他に利用者がある場合においても、公社及び原告に対し当該加入電話による通話の通話料金の支払義務を負うものは加入者であることを当然の前提とするものであるというべきである。けだし、もし、公社及び原告が、各通話毎に個別的に利用者を事前に確認し、あるいは事後に探索して、通話料金を徴収しなければならないとすれば、それに要する事務量及び経費の増大は必至であり、合理的な料金で、迅速かつ確実な通信役務を、あまねくかつ公平に提供すべき(法第一条)事業の目的に背馳する結果を招来することは見易い道理であるからである。したがって、その加入電話の利用を他に許した加入者は、その通話料金についても支払の責に任じなければならないが、後日、利用者に対し、自己が支払をなした通話料の支払を請求し得ることはいうまでもないことであるから、かく解することは、自己の危険負担において、他に自己名義の加入電話の利用を許したものというべき加入者に対し決して酷な負担を強いるものではない。

四  なお、《証拠省略》によれば、本件通話料金請求書はいずれも荻原宛に送付されていることが認められるが、それは、加入者たる被告が公社に対し同人宛に料金請求書を送付すべき申請をなしたことによるものであることが認められ、これに反する証拠はない。したがって、この点には格別の違法、不当はない。

また、被告は、昭和五〇年六月末、荻原が通話料の滞納をしていることを知り、以後通話差止をなすよう原告に申入れたにも拘らず、原告が右措置をとらなかったのは不当である旨主張するが、前判示のとおり、昭和五〇年六月以後の通話料は、同年九月二二日と同月二七日の二回のみであり、しかも、《証拠省略》によれば、右二回分はいずれも料金対話者払(コレクトコール)の通話によるものであって、原告が取扱を停止し得ないものであることが認められるから、被告の右主張も失当である。

五  以上の次第であるから、被告は、原告に対し、前記認定の通話料金四五万八、九一〇円の支払義務あるものというべきところ、これに対する附帯請求については、内金四五万五、一三〇円に対する本件支払命令送達の翌日であること記録上明らかな昭和五一年二月八日から、内金三、七八〇円に対する同年八月一九日付訴の変更申立書送達の翌日であること記録上明らかな同年八月二四日から、それぞれ支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があり、これを超える部分の請求は失当として棄却すべきものである。

よって、原告の本訴請求は右認定の限度において理由があるから、これを認容し、その余の請求は失当として棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九二条を、仮執行の宣言については同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 落合威)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例